実際にあったご相談をもとに
先日、借地売却を検討したいというご相談中に下記のお話しがありました。
長年借りている土地の一部について、建物が建っていない部分を第三者向けの駐車場として利用していました。
借地人のお話では、駐車場として貸し出す際、当時の地主から口頭で、
「駐車場として他人に貸しても構わない」
という承諾を得ていたそうです。
その後、地主も借地人も代替わりしました。
駐車場としての利用はそのまま何十年も続いていましたが、現在の地主から、
「地主の承諾なく第三者に土地を貸しているので、無断転貸である」
と指摘され、最終的に駐車場として使用していた部分を地主へ返還することになったとのことでした。(現在は既に返還済みです)
一見すると、
「地主に無断で第三者に駐車場として貸したのだから、借地人が悪い」
という単純な話にも見えます。
しかし、借地の無断転貸は、それほど単純には判断できません。
借地の一部を駐車場として貸したら「無断転貸」になる?
民法612条では、賃借人が賃貸人の承諾なく賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸したりすることを原則として禁止しています。
民法612条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除できる。
ただし、駐車場として利用したからといって、すべての場合に土地そのものの転貸になるわけでもありません。
裁判例には、借地の一部に設けた駐車場施設を第三者に貸した事案について、第三者が土地について独立した占有を取得していないことなどから、土地の転貸には当たらないと判断したものもあります。
したがって、「駐車場として貸している」という事実だけではなく、
誰がどの範囲をどのような契約で使用し、土地について独立した使用収益をしていたのかまで確認する必要があります。
無断転貸に該当しても、必ず解除できるわけではない
さらに重要なのがここです。
仮に無断転貸に該当しても、それだけで必ず借地契約を解除できるわけではありません。
賃貸借は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約であるため、無断転貸があったとしても、賃貸人に対する背信行為と評価できない事情がある場合には、解除が認められないことがあります。
実際、東京高裁平成2年4月26日判決(判時1351号59頁)では、借地をアスファルト舗装して有料駐車場として使用した行為について、転貸・用法違反に当たるとしながらも、信頼関係が破壊されたとはいえないとして解除を認めませんでした。
つまり、「無断転貸に当たるか」
と、
「借地契約を解除できるほどの行為なのか」は分けて考える必要があります。
「先代地主から口頭で承諾をもらった」は通用する?
今回のお話しの中で特に気になったのが、この点でした。
借地人によれば、先代地主から駐車場利用について口頭で承諾を得ていました。
口頭であるという理由だけで、直ちに承諾が無効になるわけではありません。
問題になるのは、「本当に承諾があったことを、現在になってどう証明するのか」です。
当時は地主と借地人の関係が良好だったため、わざわざ承諾書まで作らなかったのかもしれません。
しかし数十年が経過し、先代地主も先代借地人も亡くなってしまえば、
「昔の地主さんからいいと言われていました」と言っても、当時の本人に確認することはできません。
だからこそ、古い借地では契約書だけではなく、当時から現在までの経緯を時系列で確認することが非常に重要になります。
たとえば、駐車場として何年間利用していたのか、先代地主はその状態を知っていたのか、地主は現地を訪れていたのか、駐車場として利用されている間も地代を受領していたのか、一度でも異議を述べたことがあったのか、といった事情です。
長期間にわたり公然と駐車場として利用され、地主もそれを認識しながら異議を述べていなかったのであれば、黙示の承諾があったのではないかという点も検討する必要があります。
ところが、この案件にはもう一つ大きな問題がありました
それが、
長期間に渡る地代滞納です。
最終的には滞納地代を支払ったそうですが、借地人にとって非常に不利な事情だったと考えられます。
支払わなかった理由の如何にかかわらず、もし地代を毎月きちんと支払い続けていたのであれば、
「先代地主から承諾を得ていた」
「何十年も公然と駐車場として利用していた」
「歴代地主もその状態を認識していた」
「仮に無断転貸だったとしても、借地契約を解除するほど信頼関係を破壊する行為だったのか」
など、検討すべき点がいくつもあったでしょう。
しかし、そこに長期間の地代滞納が加わると、借地人側の立場は大きく変わります。
借地で地主ともめても、地代は安易に止めない
今回の事例から得られる重要な教訓の一つです。
地主と、
「駐車場利用を認めた・認めていない」
「更新料を払う・払わない」
「地代の金額が高い・安い」
などでもめたとしても、だからといって地代を長期間放置してよいということにはなりません。
地主が受領を拒否しているなど事情がある場合には、供託を含めた適切な対応を専門家に相談する必要があります。
自ら長期間の地代滞納という事情を作ってしまうと、それまで借地人側に有利だった事情まで含めて、賃貸借関係全体の評価に影響する可能性があります。
古い借地ほど「契約書だけ」では分かりません
今回のような案件では、
「契約書に駐車場転貸の承諾が書いてありません。だから無断転貸です」
だけで結論を出すのは早いと思います。
借地関係が30年、40年、50年と続いていれば、その間に地主も借地人も代替わりします。
先代同士では当たり前だった約束が、現在の契約書には何も書かれていないこともあります。
そのため当社では、古い借地のご相談については、契約書や登記だけでなく、
「最初から現在まで、何があったのか」を整理することを大切にしています。
地主が変わった時期、借地人が変わった時期、建物の建築・建替え、駐車場利用の開始、地主の承諾、地代の支払い、更新、増改築、当事者間のやり取りなどを時系列に並べると、契約書だけでは見えなかった問題が見えてくることがあります。
法律上の判断が必要な場合には、整理した資料をもとに弁護士等の専門家への相談をご案内し、そのうえで借地権・底地の売却、買取、同時売却など、不動産としての解決方法を一緒に検討していきます。