借地権の知識

土地・建物の明渡しで使われる「即決和解」とは?借地で利用する際の注意点

「5年後には土地を返してもらうことで話がまとまった」

「建物を明け渡すことについて相手も納得している」

このように当事者間で話し合いがまとまっていても、地主としては一つ気になることがあります。

「本当にその時になったら、約束どおり明け渡してもらえるのだろうか」

土地や建物の賃貸借では、合意から実際の明渡しまで何年も空くことがあります。

その間に当事者の考えが変わったり、相続によって地主や借地人が変わったりすることもあります。

そこで、将来の明渡しについて合意できている場合に検討される手続の一つが、一般に「即決和解」と呼ばれる制度です。

現在の正式名称は「訴え提起前の和解」といい、民事訴訟法275条に定められています。現在も簡易裁判所で利用できる制度です。

では、即決和解とはどのような制度なのでしょうか。

また、裁判所で和解しておけば、将来の土地・建物の明渡しについて絶対に安心といえるのでしょうか。

借地の裁判例も踏まえて解説します。


即決和解とは?

即決和解とは、民事上の争いについて、訴訟を提起する前に簡易裁判所へ和解を申し立て、裁判所で当事者間の合意を成立させる手続です。

現在の民事訴訟法では「訴え提起前の和解」と呼ばれていますが、実務では現在でも「即決和解」という名称が広く使われています。

通常の訴訟との大きな違いは、裁判官に「どちらの主張が正しいのか」を判決で判断してもらうことが目的ではないことです。

当事者間で話し合いを行い、その内容について裁判上の和解を成立させることを目的としています。

東京簡易裁判所も、当事者間で事前に合意し、和解条項案を作成したうえで申し立てる流れを案内しています。


なぜ普通の合意書ではなく、即決和解をするのか

例えば地主と借地人が、「令和○年○月○日までに土地を明け渡す」という合意書を作成したとします。

もちろん、この合意にも法的な意味があります。

しかし、将来相手が明渡しを拒否した場合には、その合意に基づいて改めて訴訟などの手続が必要になる可能性があります。

そこで意味を持つのが即決和解です。

裁判所で和解が成立すると、その内容が和解調書に記載されます。

そして、和解調書に記載された内容には、民事訴訟法267条によって確定判決と同一の効力が認められます。

そのため、明渡しに関する適切な条項が定められていれば、約束が履行されなかった場合、和解調書を債務名義として強制執行を検討することができます。

ここが、私人間で作成する通常の合意書との大きな違いです。


まだ裁判になっていなくても利用できる?

「和解」という言葉から、既に地主と借地人が争っていなければ利用できないのでは?と思われるかもしれません。

しかし、必ずしも裁判寸前まで対立している必要はありません。

訴え提起前の和解は「民事上の争い」について利用する制度ですが、実際の申立てでは、あらかじめ当事者間で話し合いを行い、和解内容について合意したうえで申し立てることが想定されています。

例えば、

「土地を明け渡すかどうかについて争いがあったが、あと5年間だけ使用することで合意した」

「賃貸借契約の終了について話し合い、○年○月○日に建物を明け渡すことで合意した」といったケースです。

争いを判決によって決着させるのではなく、話し合いで解決した内容を裁判上の和解として残す。

これが即決和解の大きな役割です。


土地・建物の明渡しにも利用できる

即決和解は、不動産の明渡しでも利用されています。

東京簡易裁判所では、建物明渡しに関する申立てについて、賃貸借契約書、登記事項証明書、和解条項案、物件目録などの必要書類を案内しています。

例えば賃貸借をめぐる問題について、「すぐに明け渡してほしい地主」と「一定期間は使用を続けたい借主」が話し合い、「あと3年間は使用を認め、その後は明け渡す」という形で解決することも考えられます。

このような場合、単に合意書を作るだけでなく、将来の明渡しまで見据えて即決和解を検討する意味があります。


借地では「即決和解をしたから安心」とは限らない

ここからが、借地について特に注意したいところです。

裁判所で即決和解が成立し、「この土地は○年間だけ使用する」「期間満了時には土地を明け渡す」と定められていれば、非常に強い合意のように思えます。

しかし、「裁判所で和解したのだから、借地法上も必ずそのとおりになる」と単純に考えることはできません。

借地借家法には、一定の規定に反する借地人に不利な特約を無効とする強行規定が設けられているからです。

特に問題になってきたのが、一時使用目的の借地です。


即決和解で「一時使用」と定めれば、一時使用借地になる?

必ずしもそうではありません。

一時使用目的の借地について、裁判所は契約書や和解調書の文言だけで判断しているわけではありません。

土地を使用する目的、契約期間、地上建物の種類・構造、契約締結に至った経緯などを総合的に考慮して判断しています。

つまり、

「一時使用と書いたから、一時使用になる」

わけではないのです。

この点について重要な判断を示したのが、最高裁昭和43年3月28日判決です。

裁判上の和解によって土地賃貸借を設定した場合であっても、それだけで一時使用目的になるわけではなく、短期間だけ賃貸借を存続させることについて客観的・合理的な理由があるかが問題になるという考え方が示されています。


東京地判平成元年9月26日―即決和解による借地を一時使用と認めた事例

即決和解と一時使用借地の関係を考えるうえで参考になるのが、東京地判平成元年9月26日・判時1354号120頁です。

この事件では、即決和解において設定された借地について、最終的に一時使用目的であることが認められました。

ただし、この判決も、「即決和解をしたから一時使用目的である」と考えるべきではありません。

重要なのは、その借地が成立した経緯や目的などを含め、一定期間だけ土地を使用させることについて合理的な事情が存在したかという点です。

即決和解は重要な判断材料になりますが、それだけですべてが決まるわけではありません。


一時使用借地で重要なのは「なぜ短期間なのか」

地主から、「普通借地にしたくないので、5年間だけの一時使用契約にしたい」という相談があったとします。

この場合、最初に考えるべきことは、「契約書に一時使用と書きましょう」ではありません。

まず確認すべきなのは、

なぜ5年間だけ土地を貸す必要があるのか?

ということです。

例えば、

「5年後に地主自身が建物を建築する具体的な計画がある」

「再開発や区画整理が行われるまでの暫定利用である」

「従前の明渡し紛争を解決するため、一定期間だけ使用を認めた」

など、一定期間だけ土地を使用させることについて客観的に説明できる事情があるのか。

ここが重要になります。

契約期間を短くしたから一時使用になるのではなく、一時使用とする合理的な理由があるから、その事情に応じた期間を設定する。

この順番で考える必要があります。


即決和解は「借地法を回避するための手続」ではない

即決和解は非常に有用な制度です。しかし、借地借家法の適用を回避するための制度ではありません。

したがって、

普通借地権にしたくない
↓
一時使用契約にする
↓
即決和解までしておけば絶対に大丈夫

という考え方には注意が必要です。

むしろ実務では、

なぜ一定期間だけ貸すのか

↓

その理由と契約期間は整合しているのか

↓

借主もその事情を理解しているのか

↓

土地の利用方法や建物も一時使用という目的と矛盾していないか

↓

その経緯を契約書や資料として残しているか

という順番で確認することが重要でしょう。

そのうえで、将来の明渡しについて紛争を防止する必要がある場合に、即決和解を選択肢の一つとして検討することになります。


借地では「契約時の経緯」を残しておくことも重要

借地契約は長期間に及ぶことがあります。

契約から10年、20年が経過すれば、契約当時の担当者がいなくなったり、地主や借地人に相続が発生したりすることも珍しくありません。

そのとき、「一時使用のつもりだった」「将来返してもらう約束だった」と主張しても、その当時の事情を説明できなければ問題になる可能性があります。

だからこそ、契約書だけではなく、なぜその契約を締結したのか、なぜその期間なのか、双方がどのような説明をし、どのように理解していたのか、期間終了後に土地をどのように利用する予定だったのか

といった契約締結時の経緯を、できる限り記録として残しておくことが重要です。

裁判になった場合には、契約書という形式だけではなく、こうした契約の実態を裏付ける資料が重要になることがあります。


まとめ|即決和解は強力だが「万能」ではない

即決和解(訴え提起前の和解)は、現在も利用できる制度です。

当事者間でまとまった合意を裁判上の和解として成立させることができ、和解調書に記載された内容には確定判決と同一の効力が認められます。

そのため、土地・建物の明渡しについて話し合いがまとまっている場合には、有効な選択肢となることがあります。

一方、借地については注意が必要です。

裁判所で即決和解をしたからといって、借地借家法上の問題がすべて解決するわけではありません。

特に一時使用目的の借地では、「一時使用」と書かれているかではなく、「なぜ一時使用なのか」が重要になります。

契約の目的、期間、土地の利用方法、建物の状況、契約締結までの経緯などを確認し、一時使用とする客観的・合理的な理由があるのかを検討する必要があります。

即決和解は、借地問題を解決するための有力な手段の一つです。

しかし、大切なのは形式を整えることだけではありません。

なぜその合意をするのか。その理由と実態が一致しているのか。

借地に関する契約や明渡しを検討する際には、そこまで確認することが重要ではないでしょうか。

※東京簡易裁判所 訴え提起前和解 https://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/wakai/index.html

※本記事は一般的な法令・裁判例について解説したものであり、個別の案件について法的判断を行うものではありません。実際に即決和解や土地・建物の明渡しを検討する場合には、弁護士等の専門家にご相談ください。

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