借地人からの相談 

地主が変わったら借地権はどうなる?建物登記がない・名義が違う場合も判例から解説

「地主から土地を売却すると言われた」

「突然、知らない会社から新しい地主になったという通知が届いた」

「何十年もこの土地に住んでいるけれど、新しい地主から出ていけと言われないだろうか」

借地に長く住んでいる方にとって、地主が変わることは大きな不安だと思います。

しかし、地主が変わったからといって、借地権が当然になくなるわけではありません。

一定の要件を満たしていれば、地主が土地を第三者に売却しても、借地権を新しい地主に主張することができます。

一方で注意したいのが、「何十年も借りているから大丈夫」とは限らないことです。

借地権が存在することと、新しい地主などの第三者にその借地権を主張できることは、法律上別の問題だからです。

特に重要になるのが、借地上の建物の登記です。

この記事では、地主が変わった場合に借地権がどうなるのか、実際の最高裁判例をもとに解説します。


まず確認|地主が変わっても借地権を主張できる場合があります

借地借家法10条1項では、借地権そのものの登記がなくても、借地権者が土地上に登記された建物を所有していれば、借地権を第三者に対抗できるとされています。

たとえば、

地主A
↓
あなたが土地を借りる
↓
あなた名義で自宅を建築・登記
↓
地主Aが土地をBに売却

というケースです。

必要な対抗要件を備えていれば、新しい地主Bに対して、「私はこの土地について借地権を持っています」と主張できます。

つまり、

地主が変わった=借地権がなくなる

ではありません。

ただし、ここからが重要です。


「建物があるから大丈夫」とも限りません

借地上に自宅が建っていて、何十年もそこに住んでいる。

これだけで必ず新しい地主に借地権を対抗できるわけではありません。

問題になるのが建物登記です。

特に古くから続いている借地では、

「土地の契約者は父親だけど、建物は息子名義」

「借地人は夫だけど、建物は妻名義」

「祖父の代から借りていて、相続後の関係がよく分からない」

「建物を建て替えたが、登記関係をきちんと確認していない」

といったことがあります。

こうした場合には注意が必要です。


借地人と建物の名義が違っていませんか?

最大判昭和41年4月27日・民集20巻4号870頁

この事件では、借地人が借地上に建物を所有していましたが、建物は同居していた未成年の長男名義で保存登記されていました。

最高裁は、この建物登記では借地権を新しい土地所有者に対抗できないと判断しました。

つまり、

「家族名義だから大丈夫だろう」

とは限らないということです。

同様に、最高裁昭和47年6月22日判決では、妻名義の建物登記についても借地人の借地権を第三者に対抗することを認めませんでした。

ここは古い借地を相続した方には特に確認していただきたいところです。

一度、建物の登記事項証明書を確認してみてください

土地賃貸借契約の借地人は誰か。

そして、建物登記の所有者は誰か。

この2つが違っている場合には、その理由とこれまでの経緯を確認する必要があります。

ただし、名義が違うからといって、慌てて建物名義を変更することはおすすめできません。

建物所有権の移転によって、借地権の譲渡や地主の承諾など別の問題が発生する可能性があるためです。


「表題登記しかない」という場合は?

最判昭和50年2月13日・民集29巻2号83頁

反対に、借地人本人が所有者として表示された建物について、所有権保存登記までされていなかったケースがあります。

最高裁は、いわゆる表示の登記(現在の表題登記に相当)がされていたケースについて、借地権の対抗力を認めました。

この判例から分かるのは、登記の形式だけではなく、「誰の建物なのか」が第三者から分かる状態になっていることが重要ということです。


建物の地番が少し違っていたら借地権はなくなる?

古い建物では、「登記を確認したら所在地番が少し違っていた」ということもあります。

これについて最高裁昭和40年3月17日判決は、地番に多少の錯誤・遺漏があったとしても、建物の種類、構造、床面積などを含めて建物の同一性を認識できる場合には、対抗力を認めています。

ですから、「地番が違う=直ちに借地権を対抗できない」ではありません。

ただし、登記に問題があることが分かった場合には、そのまま放置せず、司法書士などの専門家に確認した方がよいでしょう。


建物が未登記だったら、必ず土地を返さなければならない?

ここから少し難しい問題になります。

原則として、第三者に対する対抗要件を備えていなければ、新しい土地所有者に借地権を主張することができません。

しかし最高裁は、特殊な事情のある事件について、土地所有者からの明渡請求を認めなかったことがあります。

最判昭和38年5月24日・民集17巻5号639頁

借地人は実際に土地を借りて建物を所有していましたが、第三者に借地権を対抗するための建物登記がありませんでした。

その後、土地が第三者に移転しました。

通常であれば借地人にとって非常に厳しい状況です。

ところがこの事件では、土地取得者側が借地関係を知っていたことや、それまでの経緯など特殊な事情があり、最高裁は建物収去・土地明渡請求を権利濫用として認めませんでした。

ただし、

「建物が未登記でも長く住んでいれば大丈夫」

という判例ではありません。

ここは非常に重要です。


「登記がないから出ていけ」と言われても、すぐに諦めないでください

さらに重要なのが昭和43年の最高裁判決です。

最判昭和43年9月3日・民集22巻9号1817頁

この事件でも、借地人は土地取得者に借地権を対抗できる状態にはありませんでした。

しかし土地取得者は、土地上に借地人の建物があり、そこで生活・営業していることなどを知ったうえで土地を取得していました。

さらに、土地を取得した価格や経緯、明渡しによって土地所有者が得る利益、借地人が受ける大きな不利益なども問題となりました。

最高裁はこれらの事情を考慮して、建物収去・土地明渡請求を権利濫用として認めませんでした。

これは借地権者にとって非常に重要な判例です。

もし新しい地主から、「あなたには対抗力がないから建物を壊して土地を返してください」と言われたとしても、そこで直ちに、「登記がないから仕方ない」と判断してはいけない場合があるということです。

土地がどのような経緯で売買されたのか、新しい地主が何を知っていたのかなどによっては、別の法律問題が生じる可能性があります。


ただし「権利濫用=借地権が守られた」ではありません

ここが昭和43年判決の非常に重要なところです。

同じ紛争について、最高裁昭和43年9月3日・民集22巻9号1767頁では、土地所有者から借地人に対する損害賠償請求が認められています。

つまり、借地権を新しい地主に対抗できない

↓

しかし、この事情で建物を壊して土地を返せというのは権利濫用

↓

それでも、借地権に対抗力が生まれたわけではない

ということです。

ここを混同してはいけません。

権利濫用は、登記のない借地権に新しく対抗力を与える制度ではありません。

あくまで特殊な事情のもとで、「その権利の行使の仕方は認められない」と判断されたものです。

したがって、最初からきちんと対抗要件を備えておくことが何より重要です。


地主が土地を売ると言ってきたら、まずこの5つを確認してください

借地権者の方から、「地主が底地を売るそうです。大丈夫でしょうか?」

という相談があった場合、私は少なくとも次の点を確認することが重要だと考えています。

  1. 土地賃貸借契約書――借地人が誰になっているか
  2. 建物の登記事項証明書――誰の名義で、いつ登記されたか
  3. 土地の登記事項証明書――所有者、抵当権などがどうなっているか
  4. これまでの経緯――相続、建替え、名義変更などがなかったか
  5. 時系列――借地開始、建築、登記、抵当権設定、土地売却などの順番

特に重要なのが5番です。

借地権は「今どうなっているか」だけでなく、「いつ何が起きたのか」が非常に重要だからです。


土地に抵当権が付いていたら要注意

これは借地権者にぜひ知っておいてほしいポイントです。

地主が土地を普通に売却する場合だけでなく、地主の土地に抵当権が設定され、競売などによって所有者が変わる場合があります。

この場合、借地権の対抗要件を備えた時期と抵当権が設定された時期

の前後関係が重要になることがあります。

「この土地は祖父の代から70年間借りています」

という事実だけで判断することはできません。

借地契約が始まった時期と、第三者に対する対抗力を備えた時期は別問題だからです。

ですから借地権付き建物を相続した方などは、建物だけでなく、底地の登記も一度確認しておくことをおすすめします。


建替えを考えている借地権者は、建物を壊す前に確認してください

これも非常に重要です。

借地借家法10条2項には、対抗力のある建物が滅失した場合に、必要事項を土地上の見やすい場所に掲示することで、一定期間その対抗力を維持する制度があります。建物滅失から2年を超えて対抗力を維持するには、それまでに新しい建物を建築して登記する必要があります。

つまり、

「古くなったから、とりあえず家を壊してから地主と相談しよう」

という順番は危険です。

建替えを検討しているなら、建物を取り壊す前に、借地契約・建物登記・土地登記を確認する。

これを強くおすすめします。


長年住んでいる借地だからこそ、一度権利関係を確認しておく

借地の問題は、何も起きていないときには表面化しません。

30年、40年と地主との関係が良好で、「毎月地代を払っているから大丈夫」と思っていたとしても、

地主の相続

底地の売却

借地人側の相続

建替え

借地権付き建物の売却

などをきっかけに、突然問題が表面化することがあります。

特に古い借地では、契約当初から何度も相続が発生し、現在の借地人、建物所有者、登記名義人が一致していないこともあります。

問題が起きてから過去数十年の経緯を調べるのは大変です。

だからこそ、何も問題が起きていない時点で、一度整理しておく意味があります。


まとめ|「地主が変わる」と聞いたら、まず契約書と登記を確認しましょう

地主が土地を売却したからといって、借地権が当然になくなるわけではありません。

借地借家法10条1項では、借地権そのものが登記されていなくても、借地権者が土地上に登記された建物を所有していれば、第三者に借地権を対抗することができます。

一方で、

建物が家族名義になっている

建物が未登記になっている

相続後の権利関係を整理していない

底地に抵当権が設定されている

これから建物を取り壊す予定がある

といった場合には注意が必要です。

そして、もし新しい地主から、「借地権を対抗できないので土地を返してください」と言われても、すぐに結論を出さないでください。

昭和38年・昭和43年の最高裁判決のように、土地取得の経緯などによっては、権利濫用など別の問題が生じることがあります。

借地権の問題は、

①借地権があるか
②第三者に対抗できるか
③対抗できない場合でも、その権利行使が許されるのか

を分けて考えることが重要です。

当社では、借地契約書だけを見るのではなく、土地・建物の登記やこれまでの経緯を時系列に整理し、現在の借地関係を確認することを大切にしています。

地主の変更、相続、建替え、借地権付き建物の売却などで、「自分の借地権は大丈夫なのだろうか」と不安を感じた場合には、問題が大きくなる前に一度ご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律判断を行うものではありません。紛争が生じている場合など、法律判断が必要な事項については弁護士等の専門家と連携して対応することが重要です。

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