不動産取引では、土地や建物に抵当権が設定されていることは珍しくありません。ただ、通常の売買で、引渡しまでに抵当権を確実に抹消するのであれば、買主がその抵当権の実行を受ける問題は通常生じません。しかし、注意したいのが、土地の抵当権を残したまま建物を新築したり、既存建物を取り壊して建て替えたりするケースです。
例えば、
「土地に抵当権は付いているけれど、建物は自分のものだから建て替えても大丈夫だろう」
と考えて旧建物を取り壊したとします。
ところが、将来その土地について抵当権が実行された場合、新しく建てた建物に法定地上権が成立するとは限りません。土地を利用する権利が認められず、建物の存続そのものが問題になる可能性があります。
では、何によって結論が分かれるのでしょうか。
重要なのは、現在の土地・建物の状態だけを見るのではなく、
「抵当権が設定された時点で、土地と建物がどのような状態だったのか」
まで遡って考えることです。
今回は、
① 更地に抵当権を設定した後、建物を新築したケース
② 既存建物がある土地に抵当権を設定した後、建て替えたケース
③ 土地・建物を共同担保にした後、建て替えたケース
という3つの最高裁判例を比較します。一見似ている事例ですが、法定地上権についての結論はそれぞれ異なりました。では、なぜ結論が分かれたのか。
3つを比較すると、法定地上権を考えるうえで重要な判断ポイントが見えてきます。
そもそも法定地上権とは?
法定地上権とは、土地とその上の建物が同一所有者に属している場合に、その土地または建物について抵当権が設定され、その抵当権の実行によって土地と建物の所有者が別々になった場合に、一定の要件のもとで法律上成立する地上権です。民法388条に規定されています。
例えば、Aさんが土地と建物の両方を所有しているとします。
土地:Aさん所有
建物:Aさん所有
Aさんが土地だけに抵当権を設定し、その後、抵当権が実行されてBさんが土地を競落すると、
土地:Bさん所有
建物:Aさん所有
となります。
ここで問題が生じます。
もともとAさんは自分の土地に自分の建物を建てていたので、自分自身との間で土地賃貸借契約や地上権設定契約をする必要がありません。ところが競売によって土地だけがBさんの所有になると、Aさんの建物には土地を利用する権利がないことになってしまいます。
そこで、一定の要件を満たす場合に、法律によって土地を利用する権利を成立させ、建物を存続できるようにする制度が法定地上権です。
なぜ法定地上権が必要なのか
もし法定地上権という制度がなければ、抵当権の実行によって土地と建物の所有者が分かれただけで、建物を取り壊さなければならないケースが生じます。まだ十分利用できる建物まで取り壊すことになれば、社会経済上も大きな損失です。そのため、一定の場合には法律上当然に土地利用権を成立させる仕組みが設けられています。
ただし、ここで注意が必要です。
建物が存在しているからといって、必ず法定地上権が成立するわけではありません。
特に確認したいのが、
- 抵当権設定時に建物が存在していたのか
- その時点で土地と建物が同一所有者だったのか
- 抵当権は土地だけに設定されたのか、土地・建物双方に設定されたのか
- 抵当権設定後に建物が新築・建替えされたのか
- 抵当権の実行によって土地と建物の所有者がどのように変わったのか
という点です。
今回取り上げる3判例は、まさにこの違いによって結論が分かれています。
法定地上権と借地権は何が違う?
ここで、借地を扱う際に混同しやすい「借地権」との違いも整理しておきます。どちらも他人の土地を利用する権利ですが、成立の仕方が大きく違います。
一般的な借地権は、地主と借地人が土地を貸し借りする契約を締結することによって成立します。
これに対して法定地上権は、当事者が地上権設定契約をしていなくても、法律上の要件を満たすことによって成立する権利です。
通常の借地であれば、
土地=地主A
建物=借地人B
という関係が最初から存在します。
一方、典型的な法定地上権では、
土地=A
建物=A
だったところ、抵当権の実行などによって、
土地=B
建物=A
となった場面が問題になります。したがって、借地権と法定地上権では確認すべき法律関係も異なります。
ケース1 更地に抵当権を設定した後、建物を新築
最判昭和47年11月2日・判時690号42頁
まずは、抵当権設定時に建物が存在していなかったケースです。
時系列で見ると分かりやすくなります。
更地
↓
土地に先順位抵当権を設定
↓
建物を新築
↓
後順位抵当権を設定
↓
競売
後順位抵当権が設定された時点では、すでに土地上に建物が存在していました。
そのため、
「後順位抵当権設定時には土地と建物が存在していたのだから、法定地上権が成立するのではないか」
という問題が生じます。しかし最高裁は、法定地上権の成立を認めませんでした。
なぜ認められなかったのか
ここでは、先順位抵当権者の立場から考えると分かりやすくなります。
先順位抵当権が設定された時点では、その土地は更地でした。つまり抵当権者は、基本的に法定地上権の負担がない土地として担保価値を把握しています。
ところが、土地所有者が後から建物を建てるだけで法定地上権が成立するとしたらどうでしょうか。
土地所有者の後の行為によって、「法定地上権のない土地」→「法定地上権の負担を受ける土地」へと担保価値を変えることができてしまいます。これでは先順位抵当権者に予想外の不利益を与えることになります。
この判例から分かる重要なポイントは、
現在建物が存在しているかではなく、先順位抵当権が設定された時点で建物が存在していたかを見る必要がある
ということです。
ケース2 非堅固建物を取り壊して堅固建物へ建替え
最判昭和52年10月11日・民集31巻6号785頁
次は、法定地上権が認められたケースです。
こちらでは抵当権設定時に、すでに土地上に建物が存在していました。
土地+非堅固建物が同一所有者
↓
土地に抵当権設定
↓
既存建物を取り壊す
↓
堅固建物を新築
↓
土地と建物が別所有者となる
ここで問題になったのが、
「抵当権設定時にあった建物はもう存在しない。それでも建替え後の新建物について法定地上権を認めてよいのか」
という点です。最高裁は、この事案について堅固建物所有を目的とする法定地上権の成立を認めました。
ポイントは抵当権者が建替えを認識していたこと
この事件では、抵当権者が、既存の非堅固建物を取り壊して堅固建物を建築することを認識していました。そのような事情のもとで土地に抵当権を設定しています。
つまり抵当権者としても、「現在ある非堅固建物がそのまま存続する」という状態だけを前提として土地の担保価値を把握していたわけではありません。
そのため、建替え後の建物について法定地上権を認めたとしても、抵当権者に予想外の不利益を与えるとは評価されにくかったと考えられます。
ここから分かるのは、
抵当権設定後に旧建物を取り壊したからといって、それだけで法定地上権が当然に消えるわけではない
ということです。抵当権設定時の建物の存在だけでなく、建替えについて抵当権者がどのような認識を持っていたのかも重要になってきます。
ケース3 土地・建物を共同担保にした後、旧建物を解体して新築
最判平成9年2月14日・民集51巻2号375頁
3つ目も、抵当権設定時には建物が存在していました。一見するとケース2と似ています。
ところが、結論は逆です。最高裁は、原則として新建物のための法定地上権は成立しないと判断しました。
では、ケース2と何が違ったのでしょうか。
最大の違いは、抵当権者が土地だけでなく、旧建物についても担保を取得していたことです。
土地+旧建物に共同根抵当権
↓
旧建物を解体
↓
土地を更地として再評価
↓
土地所有者が第三者に土地を賃貸
↓
第三者が新建物を建築
新建物には、土地の根抵当権者による同様の担保が設定されていませんでした。
なぜ法定地上権を認めなかったのか
抵当権者は当初、土地+旧建物を一体として担保に取っています。
ところが旧建物がなくなり、抵当権者が担保を持たない新建物が建ったうえ、その新建物のために法定地上権まで成立するとしたらどうでしょうか。
抵当権者から見ると、新建物の担保価値は取得できない一方で、土地には法定地上権という負担が発生する
ことになります。
これでは、抵当権者が当初予定していた担保価値を害する可能性があります。
そこで最高裁は、新建物の所有者が土地所有者と同一で、新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権が設定された場合などの特段の事情がない限り、新建物について法定地上権は成立しないとしました。
3つの判例は、何が違ったのか
| 昭和47年判決 | 昭和52年判決 | 平成9年判決 | |
|---|---|---|---|
| 抵当権設定時の建物 | なし | あり | あり |
| 担保の対象 | 土地 | 土地 | 土地+旧建物 |
| その後 | 建物新築 | 非堅固→堅固建物 | 旧建物→新建物 |
| 特徴 | 先順位抵当権設定時は更地 | 建替えを抵当権者が認識 | 土地・建物を共同担保 |
| 法定地上権 | 不成立 | 成立 | 原則不成立 |
3判例を並べると、単純に、
「建替えたら法定地上権が成立するのか」
という問題ではないことが分かります。
見るべきなのは、建替えという一つの行為ではなく、その前後を含めた時系列です。
法定地上権を考えるなら「現在」ではなく「抵当権設定時」まで遡る
この3判例から得られる最も重要な実務上の教訓は、ここだと思います。
現在の登記を見て、
土地あり
建物あり
土地に抵当権あり
だからといって、それだけでは十分ではありません。
例えば、抵当権設定 → 建物建築なのか、
建物建築 → 抵当権設定なのか。
この順番が違うだけで、法定地上権についての評価が変わる可能性があります。
さらに建替えがあるなら、
旧建物建築
↓
抵当権設定
↓
旧建物解体
↓
新建物建築
というところまで時系列を作る必要があります。
そして、その各時点について、
誰が土地を所有していたのか
誰が建物を所有していたのか
どの不動産に抵当権が設定されたのか
抵当権者は建替えを認識していたのか
を確認していく。
法定地上権では、現在の状態だけを見るのではなく、過去まで遡って法律関係を復元することが重要なのです。
借地権付き建物を購入・建替えするときも「底地の登記」を確認する
今回の3判例は法定地上権についての事例であり、通常の借地権とは法律関係が異なります。
通常の借地では、
地主=土地所有者
借地人=建物所有者
という関係が最初から存在するため、土地・建物の同一所有を前提とする民法388条とは別に、借地権の対抗関係などを検討する必要があります。
ただし、不動産実務という観点では共通する教訓があります。
それは、
借地上の建物だけを見て判断しない
ということです。
借地権付き建物を購入したり建て替えたりするのであれば、
借地契約の内容
建物の登記
底地の登記
底地に設定された抵当権の時期
借地権との対抗関係
建替え後の融資への影響
などを確認する必要があります。
特に注意したいのが建物を取り壊す前です。建物を解体してしまった後で問題が判明すると、元の状態には戻せません。だからこそ、抵当権が設定された土地上の建物を建て替える場合には、解体前に権利関係を確認することが重要です。
まとめ|法定地上権は「抵当権設定時の状態」から考える
今回取り上げた3つの最高裁判例をもう一度整理します。
最判昭和47年11月2日
更地
→ 土地に先順位抵当権
→ 建物新築
→ 法定地上権不成立
最判昭和52年10月11日
既存建物あり
→ 土地に抵当権
→ 建替え
→ 法定地上権成立
最判平成9年2月14日
土地+旧建物に共同抵当権
→ 旧建物解体
→ 新建物建築
→ 原則として法定地上権不成立
一見すると複雑ですが、3判例を比較すると、一つの重要な視点が見えてきます。
抵当権設定時に、土地と建物がどのような状態にあり、抵当権者がどのような担保価値を前提としていたのか。
法定地上権には建物を存続させるという重要な役割があります。
しかし一方で、後から建物を建築・建替えすることによって、抵当権者が予想していなかった負担を土地に生じさせれば、抵当権者の担保価値を害する可能性があります。
だからこそ、抵当権が設定された土地上の建物を購入・新築・建替えするときには、「今どうなっているか」だけで判断しないことが重要です。
土地・建物の登記を取得し、
建物がいつ建てられたのか。
抵当権はいつ設定されたのか。
その時、土地と建物は誰の所有だったのか。
その後、建替えや担保関係にどのような変化があったのか。
そこまで時系列で確認して、初めて見えてくる問題があります。
建物を取り壊してからでは、元には戻せません。
抵当権が設定された土地上で建替え等を検討する場合には、工事を進める前に権利関係を十分確認することが重要です。
※本記事は、法定地上権に関する最高裁判例をもとに一般的な考え方を解説したものです。実際の法定地上権の成否は、抵当権設定時の土地・建物の所有関係、抵当権の内容、建替えの経緯等によって異なります。具体的な案件については、弁護士・司法書士等の専門家への確認が必要となる場合があります。