親子や兄弟、親しい知人などの間では、土地を無償で貸し借りすることがあります。例えば、「ここに家を建てて住んでいいよ」「この土地を仕事に使っていいよ」といったケースです。
このような無償で土地を使用させる契約を「使用貸借」といいます。ところが、契約書を作成せず、返還時期についても特に決めていないケースは珍しくありません。では、期間を定めずに貸した土地は、いつ返してもらえるのでしょうか。実は、「10年経過すれば終了」「30年経過すれば終了」といった一律の基準があるわけではありません。
民法の第597条2項では、当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
また、同じく第598条1項では、貸主は、前条第2項(第597条2項)に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。
重要になるのが、「何のために土地を貸したのか」という使用貸借の目的です。
今回は、土地使用貸借の終了時期について、過去の裁判例を参考に考えてみます。
使用貸借とは
使用貸借とは、借主がある物を無償で使用・収益し、その後に返還することを約束する契約です。土地についても使用貸借は成立します。例えば、親が所有する土地に子が自宅を建築し、地代を支払わずに使用しているようなケースです。
土地を使用する対価として地代を支払う「賃貸借」と異なり、無償であることが使用貸借の大きな特徴です。
期間を定めていない使用貸借は、いつ終了するのか
使用貸借について期間を定めていなくても、使用・収益の目的が定められている場合があります。前述したように民法598条1項では、この場合、借主がその目的に従って使用・収益を終えたときに、貸主は契約を解除できるとされています。
さらに重要なのが、その後の規定です。借主がまだ実際には使用・収益を終えていなくても、「使用及び収益をするのに足りる期間」を経過していれば、貸主は契約を解除することができます。
では、「足りる期間」とは何年なのでしょうか。
ここについて、法律に「○年」といった具体的な年数は定められていません。裁判例を見ると、単純な経過年数ではなく、その土地を何の目的で貸したのかが非常に重要であることが分かります。
建物所有目的なら簡単には終了しない
最高裁昭和38年9月17日判決(集民67号567頁)では、建物所有を目的とする土地使用貸借について判断されています。土地を貸す側が、借主がその土地上に建物を所有することを予定して土地を無償で使用させたのであれば、当然ながら、ある程度長期間にわたって土地が使用されることが予想されます。
建物を建てることを認めておきながら、短期間で、「もう十分使ったから返してください」ということが当然に認められるわけではありません。
つまり、使用貸借を開始したときに、どの程度の土地利用を当事者が予定していたのかが重要になります。
礼拝堂では15年8か月でも「十分」とは断定できなかった
さらに興味深いのが、最高裁昭和45年10月16日判決(集民101号77頁)です。この事案では、礼拝堂の所有を目的として土地が無償で使用されていました。そして約15年8か月が経過していました。
しかし、最高裁は、単に15年8か月経過したという事実だけから、当然に「使用収益をするのに足りる期間」が経過したとする考え方を採りませんでした。この事案では、礼拝堂だけでなく、その後の牧師館の建築なども問題となっています。礼拝堂という施設は、短期間だけ利用することを通常予定する建物とは限りません。継続的に礼拝などを行うことを目的とする以上、貸主がそのような利用を認めていた事情は、使用貸借の目的を考える上で重要になります。
この判例からも、「15年経ったから十分」「20年経ったから十分」という単純な判断はできないことが分かります。
一方、木造住宅を38年8か月使用した事例では
これに対して、最高裁平成11年2月25日判決(判時1670号18頁)では、木造建物所有を目的とする土地使用貸借について、約38年8か月という長期間が経過していました。最高裁は、この事案について、使用収益をするのに足りる期間が経過したことを否定できないと判断しています。
ここで注意したいのは、
「土地使用貸借は38年8か月経過すれば終了する」
という一般的なルールができたわけではないということです。
木造建物を所有するという目的、実際の利用状況、約38年8か月という長い経過期間など、その事案の具体的事情を踏まえた判断と考える必要があります。それでも、期間の定めのない建物所有目的の土地使用貸借について、約38年8か月という具体的な期間について最高裁が判断を示した点は、参考になる裁判例といえるでしょう。
約21年間の使用で終了が認められた事例も
東京地裁平成9年1月30日判決(判時1612号92頁)では、土地の使用収益によって生活費を得ることを目的とした使用貸借について、約21年間の利用などを踏まえ、「使用収益をするのに足りる期間」の経過が認められています。
ここでも重要なのは、21年という数字だけではありません。
「生活費を得るために土地を使用収益させる」という契約目的との関係で、その期間が十分であったかが判断されています。
15年8か月、約21年、38年8か月――何が違うのか
ここまでの裁判例を並べてみると、非常に興味深い違いがあります。
| 使用目的 | 使用期間 | 裁判例の判断 |
|---|---|---|
| 礼拝堂等の所有 | 約15年8か月 | 十分な期間の経過とは断定できない |
| 土地の使用収益により生活費を得る | 約21年 | 十分な期間の経過を認めた |
| 木造建物の所有 | 約38年8か月 | 十分な期間の経過を否定できない |
この比較から分かるのは、使用貸借の終了は「何年間借りたか」だけでは判断できないということです。
むしろ、
何のために土地を貸したのか。その目的を達成するために、どの程度の利用が当初予定されていたのか。
という点から考える必要があります。
「相当期間は何年ですか?」と聞かれたら
土地所有者から、「20年以上貸しているのだから、もう返してもらえますよね?」と相談されることも考えられます。しかし、20年という年数だけで結論を出すことは危険です。まず確認したいのは、例えば次のような事情です。
- 何のために土地を貸したのか
- 建物を建築することを承諾していたのか
- どのような建物を建築することを予定していたのか
- 貸した当時、どの程度の利用期間を想定していたのか
- その後、建替えや増築などを貸主が承諾していないか
- 現在も当初の目的に従った利用が続いているか
- 土地を貸してからどの程度の期間が経過しているか
こうした事情を総合的に確認して、初めて「使用収益をするのに足りる期間」が経過したかを検討に入ります。
土地を無償で貸す場合こそ契約書が重要
これらの判例から得られる実務上の教訓があります。それは、土地を無償で貸す場合こそ、使用目的・期間・返還条件を明確にしておくことが重要ということです。
「親族だから」「知り合いだから」「地代を取らないから」という理由で曖昧なまま土地を貸してしまうと、10年、20年、30年と時間が経過した後に、「いつ返してもらえるのか」という問題が発生する可能性があります。
例えば契約時に、「居住用建物所有のため」という使用目的だけでなく、契約期間や、建物を使用しなくなった場合、建物を取り壊した場合などの返還条件についても整理しておけば、将来の紛争防止につながります。
まとめ――「期間」より先に「目的」を確認する
土地使用貸借の「使用収益をするのに足りる期間」を考える際、最も重要なのは、「何年経過したか」だけを見るのではなく、「何の目的で土地を貸したのか」を確認することです。
15年8か月では足りないとされた事例がある一方、約21年で足りるとされた事例もあり、木造建物所有目的では約38年8か月について十分な期間の経過を否定できないとされた事例もあります。一見すると判断基準が曖昧にも見えます。
しかし、これらを比較すると、使用目的 → 当初予定された利用 → 実際の利用状況 → 経過期間という順番で考えることで、裁判所の判断の方向性が見えてきます。土地の使用貸借では、「長く貸したから返してもらえる」「建物があるから返さなくてもよい」と単純に判断することはできません。
契約締結時の目的と、その後の具体的な利用状況を確認することが重要です。
※本記事は、土地使用貸借に関する一般的な法律関係と裁判例の考え方をご紹介するものであり、個別の事案について法的判断を示すものではありません。実際の土地返還や契約解除については、契約内容や具体的事情によって結論が異なりますので、弁護士等専門家へご相談されることをおすすめ致します。
参考文献・参考裁判例
・『借地借家法の適用の有無と土地・建物の明渡しをめぐる100の重要裁判例』
・最二小判昭和45年10月16日・集民101号77頁
・東京地判平成9年1月30日・判時1612号92頁
・最一小判平成11年2月25日・判時1670号18頁