【ご相談内容】
底地を相続した方からのご相談でした。相続した遠方の土地を確認してみたところ、底地であった。底地を調べてみたところ、その上に第三者所有の建物があって、長年にわたり木造平家建ての店舗が営業されていた。
さらに確認すると、地代は何十年も改定されておらず、固定資産税額にも満たない。このような場合、地主から「ほとんど無償なのだから、使用貸借として終了させられないか」と借地人に伝えても問題ないだろうか。という内容でした。
【回答した内容】
地代が固定資産税を下回っているという理由だけで、土地の賃貸借が直ちに使用貸借となるわけではありません。建物所有を目的とする土地の賃貸借であれば、原則として借地権が成立します。契約を終了できるかどうかは、契約書の内容、契約当初の事情、地代の授受、建物の利用状況、更新の経緯などを総合して判断する必要があります。
その方とはこのような電話のやり取りで終わってしまいましたが、使用貸借との判断ポイントを調べてみました。
「固定資産税以下の地代なら使用貸借」とは限らない
使用貸借とは、借主が物を無償で使用し、契約終了後に返還する契約です。これに対して賃貸借は、借主が賃料を支払って使用収益する契約です。土地の使用貸借に関する税務上の取り扱いでは、借主が負担している金額が固定資産税などの公租公課相当額以下にすぎない場合、使用貸借として扱われることがあります。
ただし、これは主として相続税・贈与税上の取り扱いとなります。民事上の契約が賃貸借か使用貸借かは、この税務上の基準だけで決まるものではありません。
例えば、次のような事情があれば、地代が低額であっても土地賃貸借と判断される可能性があります。
・契約書に「借地契約」「地代」などの記載がある。
・建物所有を目的として土地を貸すことが明記されている。
・一定額の地代が実際に継続して支払われている。(支払いの実態がある)
・地主が長年に渡り、建物の存在と使用を認めてきた。
・借主がその建物で営業や居住を続けている。
特に、契約当初は固定資産税額を上回っていた地代が、その後一度も改定されず、税額の上昇によって現在は固定資産税額を下回っている場合があります。このようなケースについて、現在の金額だけを見て使用貸借と評価することには慎重であるべきでしょう。
小さな木造店舗でも「建物所有目的」になり得る
今回のご相談者様の土地賃貸借契約書には「普通建物所有のため」と明記されていたそうです。
借地借家法上の借地権とは、建物の所有を目的とする地上権、または土地賃借権をいいます。建物が小規模だからといって、当然に借地借家法の対象外になるわけではありません。独立した建物としての構造や利用実態があり、土地を貸した目的がその建物の所有にあったなら、店舗であっても借地権が成立し得ます。
これまでの裁判例からも、借地借家法の適用については、土地上に何らかの工作物が存在するというだけでなく、「契約当事者が何を目的として土地を貸し借りしたのか」が重視されていることがわかります。
例えば、自動車教習所として利用された土地に関する判例では、契約内容や土地利用の実態から、大半が運転の練習コースだったにもかかわらず、土地全体について建物所有を目的とする賃貸借と評価され、借地法の適用が認められました。借地借家法が適用される土地・適用されない土地とは?判例から考える判断ポイント | 合同会社I-Planning
実際に木造店舗が建築され、地主が長期間その営業を認めてきた(いや放置されてきた)ケースでは、建物所有目的を否定するのは容易ではないと思います。
更新料が支払われていなければ解除できるのか
ご相談者様に対して更新料は支払われていなかったそうです。
更新料が支払われていない場合も、それだけで契約を解除できるとは限りません。
まず、下記の点を確認する必要があります。
・契約書に更新料の支払義務が明確に定められているか
・更新時期
・地主が更新料を請求していたか
・更新料を受領した実績があるのか
・長期間請求しなかった何らかの事情があるのか
更新料の定めがない場合や、地主が長年請求していなかった場合には、地域で更新料を授受する慣習があるからということだけで、支払義務や解除権が当然に認められるわけではありません。
相続によって借地関係はリセットされない
地主が相続によって土地を取得した場合、被相続人の賃貸人としての地位も承継します。新たな地主が借地契約の存在を知らなかったとしても、そのことだけで借地権が消滅したり、契約を解除できたりするわけではありません。
また、借地が長期間放置されており、借地期間が満了しているように見えても、借主が建物を継続的に使用し、地主が異議を述べていなければ、契約が法定更新されている可能性があります。
「相続した土地を自分で使いたい」「地代が安すぎる」という事情だけでは、土地の明け渡しは認められません。
解除より先に地代の見直しを検討する
今回のご相談者様には、地代の見直しをご提案しました。長年地代が改定されず、固定資産税額にも満たなくなっている場合には、契約解除よりも、まず地代増額の検討が現実的です。
借地借家法第11条では、地代または土地の借賃が、土地に対する租税や公課の増減、土地の価格の変動、または近隣の類似土地の地代等に比較して不相当となった場合、当事者は将来に向かって地代等の額の増減を請求できると定めています。
借地契約書はもちろんのこと、地代の支払履歴、固定資産税額、謄本関係、近隣の地代水準等を揃えて、借地人とは交渉を進めていくことになります。また、借地人に土地を購入する意向があれば、底地を借地人へ売却するのも一つの手だと思います。今回のご相談者様のご自宅から遠く離れた底地だったので、将来的な管理(ご自身の相続)なども考えると売却が一番いいのかもしれません。
まとめ
地代が固定資産税額を下回っているからといって、土地の賃借が当然に使用貸借となるわけではありません。契約書に建物所有目的が明記され、地代が継続して支払われ、借主所有の店舗が長年営業している場合には、借地権が成立している可能性を前提に検討すべきです。
まず、契約の成立時期、契約書の内容、地代、更新料支払いの有無、建物の利用実態を確認して、「地代増額」「底地売却」などを検討することが現実的です。
※本記事は一般的な借地権に関する事例を解説したものであって、個別案件についての法的判断を示すものではありません。契約解除、更新拒絶、地代増額請求などを行う場合は、資料を揃えたうえで、弁護士等へご相談ください。
参考資料等
・借地借家法第2条、第5条、第6条、第11条 借地借家法 | e-Gov 法令検索
・民法第593条以下(使用貸借)民法 | e-Gov 法令検索
・国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて|国税庁